ドライバーは個性派ぞろい?
「稼ぐけど、欲張りじゃない」
タクシーに乗ってみよう
彰化県で「ハローキティが大好き」というタクシー運転手に出会った。6 月中旬の 4 日間、台湾一円を回った時のことだ。そのタクシーには、ライトの脇にコーナーポールアンテナが立っていて、その先端にキティの人形が付けてある。コンビニで買い物をするたびにもらえるシールを集め、プレゼントをゲットするキャンペーンで手に入れたとか。「1万元以上使った」というから、3 万 5000 円以上つぎ込んだことになる。
料金メーターの上には、セブンイレブンが台湾などで使っているマスコットキャラクター「オープンちゃん」の仲間が立ち、ドラえもんに登場する「スネ夫」と「しずか」を両脇に従えている。タクシーは、内も外もキャラクターだ。
台湾では、長栄航空(エバー航空)がキティの塗装をしたジェット機を飛ばし、台湾鉄道はキティ特急を走らせている。キティタクシーがあったって全然驚かないのだが、筆者的には、この運転手氏とキティの組み合わせには若干の違和感を覚えた。50 歳は超えているとおぼしき男性である。キャラクター人気が老若男女の別を問わない台湾のカルチャーを、筆者はまだ消化しきれていないようだ。
桃園国際空港では、タクシーの利用客にバナナを無料で配る活動している運転手たちがいた。台湾新幹線の桃園駅まで乗せてくれた運転手は「運転手が自分たちで金を出し合って買ったバナナだよ」と胸を張った。
料金の交渉が面倒くさそうだったのは台南の運転手。ただ、5 時間で 2000 元という値段は悪くない。しかも、途中で廟の祭りが行われているのを目ざとく見つけ、「あれを見ろよ」と指さしたりもする。筆者と一緒に乗っていた日本からの知人は「言われなければ気付かなかった」と興奮気味だった。
台南では、農村部を 2 カ所回ったのだが、2 カ所目まで来たところで知人が最初の訪問先に忘れ物をしたことに気付いた。買い直すとなると安くはないもの。しかし、忘れ物を取りに戻ると、約束の5時間をオーバーしてしまう。運転手氏に相談してみると、「最初に 2000 元と言ったんだから、2000 元でいい。金を稼ぐことと、欲張りとは違う」という答えが返ってきた。
忘れ物を無事に回収して予定の場所に戻ってみると、出発から5時間半ほど経っていた。「次に台南に来るときには電話してくれよ。忘れるなよ」。今回の縁をこれきりするのはもったいない。そんな気持ちのこもった言葉を残し、運転手氏は去っていた。
タクシーの運転手たちがバナナを無料で配っていた=桃園国際空港
料金メーターの上には「スネ夫」と「しずか」=彰化県員林鎮
ハローキティを付けたタクシー=彰化県員林鎮
松田良孝(まつだ よしたか)
1969 年、さいたま市生まれ。北海道大学農学部農業経済学科卒。八重山毎日新聞記者などを経て、現在はフリー。石垣島など沖縄県と台湾の関係を中心に取材を続ける。著書の『八重山の台湾人』(南山舎、2004 年)は、2012 年に『八重山的台湾人』として中国語訳され、行人文化実験室(台北)から出版。共著に『石垣島で台湾を歩く:もうひとつの沖縄ガイド』(沖縄タイムス社、2012 年)。2014 年には小説『インターフォン』で第 40 回新沖縄文学賞受賞。