三峡・鶯歌
文/ 朱佳雯・劉宛昀 写真/ 宋育玫
台湾本島北部、新北市の三峡と鶯歌には二百年に及ぶ歴史がある。両地区に残る古い商店街(「老街=ラオジェ」)はそうした盛衰の痕跡をとどめることから「三鶯老街」と呼ばれている。
三峡は大漢渓・三峡河・橫渓という三つの河川が合流する位置にあたり、かつては「三角湧」と呼ばれていたが、日本時代に三峡(サンシャー)と改名された。水運に便利なことから、交易の中継地として栄え、当地からは茶・染め物・樟脳などが内外に向けて積み出された。一方鶯歌(インガー)は二百年余り前、台湾最大の陶磁器の生産輸出基地だった。最盛期には各所に窯場の煙突が林立し、この町を象徴するシンボルとなっていた。かつて陶業の繁栄を支えた尖山埔一帯が、現在の「鶯歌陶芸街」である。
三峡と鶯歌の街道はいずれも台湾早期の閩南(福建南部)風の建築様式を残し、共通する風情がある。赤レンガの柱や正面の独特の細工が特徴である。日本時代になってバロック建築の影響を受け、さらに華麗な装飾や紋様が施され、中国・欧風・和風の融合した比類なき街並みを形成した。
アクセス
台北-三峡老街:
MRT永寧駅から藍43・916市バス、あるいはMRT新埔駅から910市バス利用
台北-鶯歌老街:
台湾鉄道鶯歌駅下車後文化路方向に徒歩約10分
三峡老街-鶯歌老街:
台北客運702号バス・桃園客運5001・5005号バス・休日文化バス833鶯歌線/三峡線
三峡老街
台湾で最長の老街
三峡老街は河に面した民権街一帯を指し、長さ約260メートルと、台湾では最長の老街である。清代の1755年に安渓人董日旭が開墾に入ったと伝えられ、この年に三峡興隆宮、1769年に三峡清水祖師廟が創建された。やがて炭鉱が開発され、染物業が発達した。またヒノキを産し、樟脳や茶葉などの経済作物が栽培された。
三峡老街は日清戦争後に焼失したが、住民によって再建された。1905年から1915年まで三角湧支庁長を務めた達協良太郎の手によってインフラおよび交通網の整備が進められ、商店街が当時流行の欧風に趣きに改装された。和洋折衷の風情に漢人文化が溶け込む独特の景観はいまもよく保存されている。
かつてこれらの町屋は一階が店舖あるいは工場、二階が倉庫兼生活空間となっていた。閩南風の建築に和風の家紋、そしてギリシャ風の柱やローマ風のゲートにバロック風の装飾、さらに女児牆(低い欄干のある屋上)や山牆と呼ばれる正面の体裁、そして店号や姓氏によって異なる額や文様が施されている。近隣の中山路の三峡歴史文物館はかつての庄役場で1929年の創建。往時「台湾でもっとも美しいオフィスビル」と謳われた。
三峡長福巌(清水祖師廟)
現在の祖師廟の設計を担当したのは当時三峡の代理街長を務めていた李梅樹教授で、1945年に建造が始まった。内部の建築や彫刻は精緻で「東方芸術の殿堂」と称される。旧暦正月六日は祖師の聖誕日にあたり、三峡の祖師廟でも盛大に神猪祭典(豚のコンクール)が開催される。
三峡祖師廟は「三進九開間」と呼ばれる豪壮な殿堂式寺廟である。「三進」とは前殿・大殿・後殿を指す。「九開間」は廟の幅をいう。その建築は他の廟と次の点が異なる:
1.すべての壁面に石材を使用。そのため壁面の装飾は浮彫の手法が用いられている。
2.樑には彩色がなく、いずれも浮彫に金貼りの装飾が施されている。
3.前殿・大殿・後殿にはいずれも藻井(天井の装飾)がある。一般の廟は前殿と大殿のみ。
また祖師廟の最大の魅力は大殿の「三層雙龍柱」「花鳥柱」「百鳥朝梅柱」といった石柱の精緻な彫刻にある。
三峡拱橋
長福橋
長福橋は長福街と光明路を結ぶ。欄干には138の石獅子が並び、瑠璃ガラスの屋根をもつ七つの東屋が建つ。橋の一端が祖師廟にあたる。
茶山房
茶山房の前身は半世紀以上の歴史を擁する「美盛堂化工場」。台湾で唯一純天然の浮水石鹸(水に浮くせっけん)を生産する工場だった。創業者の林義財氏は社会に役立つ工業として、せっけん作りに一生を捧げ、自ら開発した肌に優しい中性せっけん「浮楽脱薬皂」はヒット商品となった。1982年に工場を拡大移転したが、同じ年に台湾で最初のボディソープが売り出されると、経営は行き詰まる。一度は廃業を余儀なくされたが、三代目林祐安氏が三峡に戻って茶葉店を開業。三峡特産の碧螺春茶をせっけん入れて客に贈ったところ好評をえて、茶皂(茶いり石鹸)の大量販売に乗り出し、家業を再生させた。
2006年に三峡老街に茶山房本店を開き、ブランドイメージをランクアップさせたが、いまも手作りにこだわって、台湾唯一の浮水せっけんを作り続けている。その制作過程において「抽鹸」というステップを踏むことでせっけんを中性にしてお肌にいっそう優しくした。化学成分を加えない自然分解にこだわり、添加している成分もみな台湾産。美盛堂化工場は現在せっけん文化体験館に生まれ変わり、石鹸についての知識を学ぶだけでなく、自ら天然ソープ作りに挑戦できる。
三峡産の大菁(琉球藍)は藍染の素材であるが、これをせっけんに使用することで、保湿・排毒の効能を具える。
三峡特産の碧蘿春茶の茶葉をせっけんに加えた。油脂とのバランスがよくなり、夏に適す。
台湾・卓武山の特選コーヒー豆をせっけんに加えることで、角質を取り除き、新陳代謝を促進する。
茶山房本店
Add:新北市三峡区民権街79号
Tel:(02)8671-8822
茶山房せっけん文化体験館
Add:新北市三峡区白鶏路64-11号
Tel:(02)2671-4400
Open:9:00-17:30
Ticket:100元-200元、体験内容による(DIYおよびガイドは要予約)
三峡は清代、北部台湾における染業の中心地。なかでも藍染めが盛んで三峡渓や埔渓の河畔では染物の水洗いや日干しがおこなわれた。当時淡水河を利用した水運が盛んで、下流の町から生地が運ばれ三峡で染色され、完成品がまた下流の萬華を経て、マカオ・福州・漳州・上海といった地に輸出された。三峡藍染展示センターは三峡歴史文物館そばにあり、藍染DIY、染色技芸教室が開かれている。
Add:新北市三峡区中山路20巷3号
Tel:(02)2671-2608
Open:火曜-日曜10:00-17:00 (月曜定休)
Ticket: 無料入館、体験コースは200元前後(要予約)
甘楽文は三峡渓畔に位置し、百年の歴史をもつ三合院。展覧・公演スペースのほかカフェと藍染体験教室を擁する。
創業者の林峻丞氏はもともと茶山房の販売責任者だった。しかし三峡への思いから、2010年に甘楽文創を立ち上げ、オリジナル商品の即売のほか、青年たちに展覧・公演スペースを提供している。毎月展覧テーマが交代し、週末午後および夜間にはLiveがある。
媽祖の敬虔な信奉者である林峻丞氏は好運をもたらすといわれる赤い紙を使って紅包(のし袋)を制作している。
当地のアーチスト手作りの絵本。可愛い挿絵で三峡を紹介している。
Add:新北市三峡区清水街317号
Tel:(02)2671-7090
Open:日曜-木曜11:00-21:00
金曜-土曜11:00-22:00
(第二木曜定休)
近年金牛角(クロワッサン)が三峡を代表する名物になっている。さくさくの外皮にしっとりとした口あたり。バナナ・チョコ味のほかアイスクリームとのコラボが好評。
金牛角アイスクリーム95元 / プルーン金牛角22元 / バナナ金牛角29元
三峡老街一店
Add:新北市三峡区民権街44号
Tel:(02)8671-6396
Open: 08:00-20:00
福州師麦芽酥
百年の老舗で、現在三代目が継いでいる。防腐剤を使用せず手作りにこだわる。麦芽糖にピーナッツパウダーをふりかけてから細長く成型する。胡麻をふれば、いっそう風味が増す。
麦芽酥 100元/箱
Add:新北市三峡区民権街107号
Tel:(02)8672-6013
Open:月曜-金曜10:30-18:00
土曜・日曜10:00-20:00(定休日なし)
卓師傅糖蔥
日本時代、台湾住民は私蔵の砂糖を秘匿するため、未精製の砂糖から細長いスナックを発明した。ネギに似ることから「糖蔥」と名付けた。砂糖のシロップを冷却して軟膏状にし、繰り返し引っ張ることで空気を取り込み、細い管状にする。さくさくとクッキーのような食感がある。
糖蔥80元/袋
Add:新北市三峡区民権街78号
Tel:0911-772-113
Open:10:00-18:00
東道飲食亭
圖說:鶏腿飯 95元/排骨飯 90元 / 蜂蜜檸檬蘆薈50元
Add:新北市三峡区仁愛街7号
Tel:(02)8671-5692
Open: 11:00-20:00 (火曜定休)
碧螺春緑茶は三峡の特産品。「碧」はヒスイのごとき緑から名付けられた。「螺」は茶葉の芽がタニシの形に似ること、「春」は春に採集されることから採用された。老街の突き当りに位置する三角湧碧螺春茶坊は現在四代目の老舗。多くのコンクールに受賞歴がある。
Add:新北市三峡区民権街147号
Tel:(02)2672-2366
Open:9:00-18:30(木曜定休)